
2010年04月12日
昔話
僕の住んでいるさぬき市造田長行の遍路道沿いには当願(とうがん)さんというお堂があるのですが、この辺りにはこんな昔話が残っているので紹介します。
今から1200年ほど昔、長行には当願(とうがん)、暮当(ぼとう)という仲のよい猟師の兄弟が住んでいた。志度寺の本堂が建立されその落慶供養の法会が行われている日、暮当は仕方なく猟に出たが、猟をしながらも、志度寺では今ごろは有難いお説教が始まっていることだろうと考えるのであった。一方、猟を休んで志度寺の法会の座にすわっていた当願は、お説教を聞くのもうわの空で、弟の暮当が猟場で獲物をひとりじめにしていることだろうと、ねたみといまいましさに心を乱していた。そうこうしている間に供養も終わり、たくさんの参詣人も帰り始めたが、どうしたことか当願は体が重くなって立ち上がることができず、その上、下半身が熱をおびてどうすることもできなくなってしまった。
やがて日暮れも迫って来たので、暮当は獲物を持って、兄に有難いお説教の話などを聞こうと急ぎ足で帰って来た。ところが、いくら待っても当願が帰って来ないので、志度寺へ兄を迎えに行ってみると、当願が本堂で一人座っており、近づいてみると当願の体はみるみる大きくなり、下半身は蛇身に変っていた。そして、肩で大きな息をしながら「おれは空念仏のために畜生になった。信心深いお前の情で幸田池へ入れてくれ」と言ったので、暮当は兄を背負って帰り、幸田池へ入れた。
三日たって暮当が幸田池へ行ってみると、大蛇になった当願が出て来て、幸田池ではせますぎるので火打山池へ移すようにいったので連れて行った。またしばらくして火打山池へ行くと、今度は満濃池へ連れて行ってくれという。そして礼をいい後を頼むといって、自分の左の眼をくりぬいて暮当に渡し、これをかめに入れておけば、いくら汲んでも尽きることなく酒になるので、それで暮らしをたてるようにと言った。
暮当は当願の言うとおりに酒を売って財をなした。ある時暮当の留守にその妻が酒の秘密を知って、その目を朝廷に差し出した。朝廷ではそれを喜ぶとともに、この玉は双玉のはずだから、もう一つの玉も差し出せと命じた。暮当はやむなく当願に頼んで右の眼ももらい朝廷に差し出した。朝廷では沢山の褒美を与えようとしたが、暮当はそれを受けず、そのまま姿を消してしまった。
大蛇となった当願は、満濃池もせまくなったので、その後、大槌と小槌の間の海中に移り竜神となって住みつくようになった。干ばつのときには長行くの人たちが神酒を海中に沈めると必ず雨を降らせてくれるという。
Posted by Masa at 11:32│Comments(0)